国立極地研究所 助教 石輪健樹さん(固体地球班 研究協力者)が、
2022年度日本第四紀学会若手学術賞を受賞されました。
[受賞対象論文 1]
Ishiwa, T., Yokoyama, Y., Obrochta, S., Uehara, K., Okuno, J, Ikehara, M., Miyairi, Y. (2021)
Temporal variation in radiocarbon pathways caused by sea-level and tidal changes in the Bonaparte Gulf, northwestern Australia. Quaternary Science Reviews, vol. 266, 107079. https://doi.org/10.1016/j.quascirev.2021.107079
[受賞対象論文2]
Ishiwa, T., Okuno, J., Suganuma, Y. (2021) Excess ice loads in the Indian Ocean sector of East Antarctica during the last glacial period. Geology , vol. 49, 1182-1186.
https://doi.org/10.1130/G48830.1
受賞理由:石輪さんは、最終氷期から現在に至る南極氷床と海水準変動に関する研究に取り組んでいる。今回 の対象論文である 2 本の論文はこれまで取り組んできた最終氷期最盛期における海水準変動に 関する研究をさらに発展させた研究である。これまでの研究においてオーストラリア北部における海洋堆積物試料を用いて最終氷期最低位海水準の規模と時期に関する世界で最も高分解能の研究成果を報告してきた。今回の 2 本の論文は、対象論文 1 では海洋堆積物の解析において不可欠である放射性炭素年代データに関して、用いる試料の種類によって海洋堆積環境の影響を大きく受けていることを示し、対象論文 2 では最終氷期の MIS-3 の東南極氷床の発達史に関して新しいモデルを提示したものである。 対象論文 1 は、北西オーストラリアの大陸棚から採取した海洋堆積物コア試料について、最終氷期以降 の環境変化を物理モデルと海水準変動を統合して解析している。陸源植物、海棲の貝、有孔虫、不溶性有 機物(acid insoluble carbon: AIC)などの起源の異なる試料の年代測定結果を堆積物の地球化学的な分析 結果と伴に総合的に解析し、潮汐による混合が卓越した海域では再堆積の影響が大きいことや、陸源と海 洋起源の AIC 識別が重要であることを示した。
対象論文 2 は、MIS-3 における東南極氷床に関してこれまで出版されてきたデータを再検討し、固体地球の変形モデル計算により氷床の発達史に関して新しいモデルを提示した。その結果、MIS-3 におい て東南極氷床は大きく成長していること、最終氷期最盛期以前に南極氷床は最大化した可能性を示したも ので、東南極氷床の拡大と融解のタイミングは北半球と大きく異なることを示した。 これらの論文は第四紀学の発展に貢献する優れた学術成果である。