研究概要

 

【領域及び計画研究の具体的な達成目標】

本領域は、東南極を主なターゲットとし、これまでのこの地域における日本の先見性を活かし、現場観測とモデル研究を融合させ、南極とその周辺における底層水・周極流・生態系・氷床・固体地球の実態と変動の素過程、およびそれらの相互作用を明らかにする。特に、氷床-海洋の相互作用や、過去の南大洋と南極気候・氷床変動の復元、生物動態等の変動の解明を目指す。これらを通して、ミッシングピースであった東南極の環境システムモデルを構築し、南大洋と南極氷床が種々の相互作用を通じて全球環境変動に果たす役割とそのメカニズムの解明に迫る。本領域研究は、気候の将来予測や社会影響など、多くの分野への波及効果も期待される。多階層の数値モデルによるシミュレーションと現場観測データとの融合、分野横断による現場観測や、無人探査技術の工学的発展など、学際的側面の意義も大きい。さらに、本領域で得られる成果を基に、東南極を研究対象とする各国と連携し、日本発の国際共同研究の発展に向けた土台を創生する。

【各計画研究の概要】

研究項目A01:熱-物質リザーバ南大洋とその変動

A01-1「南極底層水を起点とする熱塩循環・物質循環のダイナミクス」、A01-2「南大洋の古海洋変動ダイナミクス」、およびA01-3「海氷下の生態系と物質循環の相互作用」の3つの計画研究からなる。熱-物質リザーバとしての南大洋の視点を鍵に、特に海氷・氷床縁域を中心として、海洋物理・化学、生物、地質学等の観測から、大気-氷床-海氷-海洋間の相互作用のプロセスの解明を行い、過去から現在までの海洋循環・物質循環・生物動態等の変動を明らかにする事を目的とする。

A01-1 南極底層水を起点とする熱塩循環・物質循環のダイナミクス(底層水班)

【役割】

深層循環のミッシングピースである東南極域をターゲットに、底層水の生成・拡がり・変動及びそれに伴う物質循環過程を氷床融解の影響を含めて、現場観測データから定量化し、底層水及びその氷床との相互作用が全球の熱・水・物質循環へ果たす役割を評価する。

【研究内容】

  1. アメリー棚氷周辺域を中心として、底層水の生成量・拡がり・変質を、棚氷融解水の影響を含めて、複数の化学トレーサー(CFCs/SF6, δ18O等)と新規手法による係留観測等から定量化する。さらに、全炭酸等の測定から底層水を起点とする栄養塩循環及びCO2取り込み速度を推定し、それらの気候や生態系への影響を評価する(生態系班と連携)。
  2. 重い水や諸物質の潜り込み域である(ケープダンレー)ポリニヤにおいて、高海氷生産/高密度水生成過程及び物質循環に関わる観測を自動採水係留系や係留式フロート等を導入して行う。
  3. アメリー棚氷・しらせ氷河域をターゲットとして、水中ロボット観測やバイオロギング観測から、海氷-海洋-氷河相互作用の素過程を明らかにする(探査班・氷床班と連携)。

A01-2 南大洋の古海洋変動ダイナミクス(古海洋班)

【役割】

鮮新世から現代に至る約500万年間の南大洋の古海洋変動を復元し、南極周極流・底層水・海氷のダイナミクスと全球気候変動との相互作用を解明する。

【研究内容】

  1. 現場観測・試料採集(底層水班と連携)、セディメントトラップ実験(生態系班と連携)を行い、極前線および季節海氷域における沈降粒子の季節変動を明らかにし、生物地球化学プロセスに対する海氷被覆の影響を解明するとともに、古海洋プロキシの高精度化と新規開発を行う。
  2. 海底コアから南大洋の表層水温、塩分、栄養塩、冬季海氷分布、ダスト供給、生物ポンプ等の変動を復元し、氷河期から温暖期に移行する過程や氷期—間氷期サイクルにおける南大洋変動のダイナミクスを詳細に明らかにする(氷床班と連携)。
  3. 鮮新世温暖期から第四紀への気候寒冷化およびスーパー温暖期において、南大洋の海洋循環と海氷分布の変動と南極氷床・海水準・全球気候変動との相互作用を解き明かす(固体地球班・モデル班と連携)。

A01-3海氷下の生態系と物質循環の相互作用(生態系班)

【役割】

東京海洋大学「海鷹丸」などの海洋観測船を活用して、季節海氷域における炭素等の物質循環を駆動する生態系の構造と動態を把握する。これにより、海氷変動が東南極の海洋生態系と物質循環に及ぼす影響を評価する。

【研究内容】

  1. 海洋表層の生態系と物質循環:海氷融解期から生成期の海氷下および氷縁域で、生態系の主要構成者である海氷生物群集や植物・動物プランクトン、小型魚類の動態・生活史・再生産機構に着目し、表層における物質循環を明らかにする(底層水班・古海洋班と連携)。
  2. 生物ポンプによる鉛直輸送:自律観測システム(係留系・漂流系など)を用いて、船舶では困難な冬季を含む通年の時系列観測を行い、表層生物群集によって固定された物質の深層への輸送・隔離過程を明らかにする(古海洋班と連携)。
  3. 高次捕食者と物質の移動:季節海氷域の生態系変動に対する海鳥類、大型ほ乳類の応答プロセスを調べ、物質循環における捕食動物の影響を定量化する。

研究項目A02:水-熱リザーバ南極氷床とその変動

A02-1「南極氷床と気候の変動および相互作用」、およびA02-2「固体地球と氷床の相互作用」の2つの計画研究からなる。水-熱リザーバとしての南極氷床の視点から、氷床流動や表面質量収支、測地、固体地球物理学等の観測やアイスコアの解析を行い、現在から過去数百万年スケールまでの、南極気候・炭素リザーバの変動特性と全球環境変動との関連や、南極氷床変動にともなう固体地球の応答等の解明を目的とする。

A02-1 南極氷床と気候の変動及び相互作用(氷床班)

【役割】

アイスコアの分析や氷床の直接観測により、南極氷床と全球気候の現在や過去の状態を明らかにし、それらの変動メカニズムと相互作用を解明する。特に、過去数十万年の気温や降雪量、海氷、炭素循環に関する分析や、氷床質量収支や海洋との相互作用にかかる観測を軸とする。

【研究内容】

  1. ドームふじ等で採取されたアイスコアを解析し、南極及び全球の環境変動を復元する。氷床・気候モデルの入力となる二酸化炭素や、気温や海水温復元のための水同位体や希ガス、放射強制力や物質循環に関わるエアロゾル、海氷由来物質、気候不安定性復元のためのメタン濃度、標高変化に関連する空気含有量、年代精度向上のための成分などを分析する。特に、南極氷床が縮小した「スーパー温暖期」に着目し、数値モデルや海底コアデータを用いた比較研究を行う(古海洋班・モデル班と連携)。古環境シグナル形成プロセスの研究も実施する。
  2. 氷河と氷床の現地観測とリモートセンシングにより氷床流動と質量変化を測定する。氷床沿岸部や氷河流域全体での質量収支・氷損失を定量化し、氷河加速や棚氷底面融解、接地線移動などの状態とメカニズムを理解する(底層水班・固体地球班と連携)。観測成果を用いて氷床モデルの精緻化に寄与し、氷床量と海水準の将来予測精度向上に貢献する(モデル班と連携)。

A02-2 固体地球と氷床の相互作用(固体地球班)

【役割】

東南極の沿岸・内陸の測地観測・地形/地質調査や海底地形解析から、氷床変動に伴う固体地球の応答(GIA)モデルを高精度化し、過去から現在の氷床質量収支を明らかにすることで、氷床・海洋・気候の統合的モデル研究に資する。

【研究内容】

  1. 東南極の各国基地や未探査の内陸地域での絶対重力・GNSS観測に基づく現在の氷床変動・地殻変動の精密な描像と、地形/地質調査に基づく過去の氷床変動復元を行う(氷床班と連携)。
  2. 現場の測地観測データと、衛星データ(InSAR・衛星重力・高度計)とを組み合わせ、GIAモデルの高精度化を図る(氷床班・モデル班と連携)。
  3. 無人探査機などを用いた詳細航空測量による微小氷河地形解析や海底地形解析に基づき、氷床後退過程復元の高精度化を進め、GIA解析の精度向上を図る(探査班と連携)。
  4. 高精度化したGIAモデルを活用し、東南極における過去数100万年間、および最終氷期以降の氷床融解過程を精密に復元し、全球的な気候変動に対する東南極氷床の応答メカニズムとその変動速度を明らかにする(モデル班と連携)。

研究項目A03:未探査領域への挑戦

未探査領域に新たな観測機器を導入し、研究にブレークスルーをもたらす観測データを取得する。特に、氷の下の海に無人探査機や通年観測測器を導入することで、氷の下の温度や塩分、地形データの取得を目指す。また、氷や岩盤の上空に無人航空機を展開し、陸上での氷河形状や地形の広域マッピングを可能とする。分野を跨ぐ様々な研究観測手法の新規導入を図り、現場研究観測の分野間連携も補強する。

A03 未探査領域への挑戦(探査班)

【役割】

水中ロボット(AUV他)等の無人探査機の導入によって、南極海の未知の領域である海氷・棚氷下及びその縁辺域の海洋や海底の構造等の解明、ならびに無人航空機を活用した極域の海氷・氷河・陸域の高精細3次元表面形状の空中計測を目指す。これらの新たに取得可能となるデータによって、本領域内外の氷床・海洋研究のブレークスルーを促す。

【研究内容】

  1. 浮沈式水温塩分計を導入し、海氷下での連続観測を可能にする。また、AUV(Autonomous Underwater Vehicle)を用いた海氷・棚氷下の面的および鉛直方向の広範囲にわたる三次元的な観測のための技術開発を行う。これらの無人水中ロボットの導入により、従来の未探査領域での観測を現実化し、南極陸氷の融解水流入、氷床の変動履歴を残す海底地形、海氷下の海洋深層循環の動態等の解明に向けた研究を促進する。(底層水班・固体地球班・モデル班と連携)
  2. 無人航空機の極域での安定飛行技術を構築し、小型のレーザースキャナーを搭載して自動飛行させ、南極氷床縁の海氷、氷河・氷床、露岩、および内陸山地の高精度・高分解能の3次元表面形状データを作成する(氷床班・固体地球班と連携)。

研究項目A04:南極氷床・海洋・気候の統合的モデリング

海洋-氷床相互作用のモデルの開発や、数値実験による南大洋変動、物質循環、南極気候の変動要因の分析を目的とする。モデルの開発や複数の数値実験による研究を独自で進めると同時に、研究項目A01およびA02の現場研究観測および実験と緊密に連携し、互いの結果をフィードバックさせる形で融合研究を推進する。

A04 南極氷床・海洋・気候の統合的モデリング(モデル班)

【役割】

これまで蓄積した各種のモデリング手法に、他班による観測からの最新知見を取り入れて、様々な時間スケールでの南極氷床・海洋・気候・物質循環の変動に関する数値実験を展開する。南極と全球の環境変動の相互作用や、南極氷床変化の「ティッピング・ポイント」を把握する。

【研究内容】

  1. 南極氷床と海洋の変動分析:氷床-海洋間および氷床-固体地球間の相互作用が計算可能なモデルを構築する。観測とモデルの融合的研究により、様々な観測事実の要因分析を行う(底層水班・生態系班・氷床班・固体地球班・探査班と連携)。
  2. 「スーパー温暖期」を含む過去数百万年間の気候モデリングとデータの統合的研究:アイスコアや海底コア、地形調査データを入力や検証に用いつつ、氷床、海洋・海氷、炭素などの物質循環、水同位体のモデリングと変動メカニズム解析を行う(古海洋班・氷床班・固体地球班と連携)。
  3. ティッピング・ポイントの把握と将来予測:モデル結果とデータを融合的に用いて、南極氷床や底層水形成がティッピング・ポイントを超えるときの条件(海洋や気候の状態)とメカニズムを明らかにし、将来見通しを立てる(底層水班・古海洋班・生態系班・氷床班・固体地球班と連携)。

本領域の組織図